議員の発言・訂正・取消し
(2020年3月12日・議会運営委員会案件1)2はこちら

議論する期限を過ぎている
 発言を削除するか否か。それを決める期限は、2019年12月20日でした。ところが、2019年12月本会議における一部の音声が、厚木市議会インターネット中継から消されたままとなっています。更に、突如として開催された2020年3月12日の議会運営委員会では、本人が知らない間に発言取り消しが協議されました。しかしながら、厚木市議会会議規則第63条により、発言の訂正や取り消しは、その議会中に決めることになっています。つまり、意思決定のタイムリミットを過ぎてから、3カ月以上経過しています。

 名切文梨議員(国民民主党)は2019年11月28日(12月議会初日)、厚木市立病院について質問しました。その中で、「末期がんの患者さんで数時間内にお亡くなりになる状況において、市立病院が高額な投薬をした」と発言。
 これに対して、同年12月20日の最終日冒頭、長谷川節病院事業管理者は、「名切議員の発言は、看過できない」と反論。続いて、名切議員も反論しました。

寺岡まゆみ議長は、名切文梨議員より提訴

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(発言の取消し又は訂正)
厚木市議会会議規則第63条
 発言した議員は、その発言をした定例日を含む厚木市議会の会期等に関する条例(平成26年厚木市条例第15号)第2条の規定により集中して審議する期間中に限り、議会の許可を得て発言を取り消し、又は議長の許可を得て発言の訂正をすることができる。ただし、発言の訂正は字句に限るものとし、発言の趣旨を変更することはできない。
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消されたままの音声
議運で協議された発言
インターネット中継
2019年11月28日
(12月議会初日)
名切文梨議員
長谷川節 厚木市立病院事業管理者
内田晃 病院事業局長
  ラスト10:04~3:52
2019年12月20日
(12月議会最終日)
名切文梨議員
長谷川節 厚木市立病院事業管理者
佐後佳親 学校教育部長
名切議員の発言の一部
佐後部長の発言の全て
最初の40秒~8:10

 議会は、言葉のやり取りが行われる場です。議員による発言の自由は保障されています。発言は、議員としての資質や自治体の課題が示されます。住民にとって、会議録や動画は、知る権利が保障されるツールです。
 議員必携(最新版/第11次改定新版/学陽書房)によると、「個人の問題を議論の対象としたり、無礼な言葉の使用」は、注意するとされています。また、「発言の取消し・訂正は、その会期中に限られる」とされています。名切議員の発言は、限度を超えた無礼な発言であったのか。それは、議会運営委員会(2020年3月12日)の資料で判断できます。

裁判で扱われにくい議会発言
 2020年4月初め、他県の市議より相談を受けました。その議員は、議会だよりを担当する委員会の委員長(以下、X委員長とする。)です。他の議員(以下、Yとする。)が2020年3月議会で、「利益相反」と発言。市は、議会だよりに「利益相反」との発言掲載について、難色を示しているとのこと。X委員長が私に電話してきた日の19時30分頃、市の企画部長がX委員長に電話し、「Y議員が裁判を起こされてもいいのか?」と伝えたそうです。3月議会中、Y議員からも議会からも発言訂正や削除との話は出なかったそうです。
 私は、X委員長に最高裁判所や高等裁判所における幾つかの判例をお知らせしました。議会は、自律的団体であるため、裁判所としては判決を出しにくい状況です。つまり、「もめごとは内部で処理して下さいね~」ということです。

 最高裁判所が判例を変更(2021年2月3日追記)

議長による発言取消命令の裁判事例
 ただし、愛知県議会議員の発言が議長によって削除されたことが裁判になったことがあります。発言が配布用の会議録やインターネット上の会議録、動画から削除されたました。
 名古屋高等裁判所は平成29年(2017年)2月2日、「一般社会と直接関係する重要な権利」、「司法審査の対象となる」としました。私はこの判決を支持します。九州大学 赤坂幸一准教授も私と同様の考えであると云えます。赤坂准教授に同調する法学研究者も多いようです。
 「もめごとは内部で処理して下さいね~」は、最高裁判所が昭和35年(1960年)に出席停止処分について、「司法審査は及ばない」(裁判の対象にはならない)とした判決に基づいています。
 しかしながら、仙台高等裁判所は平成30年(2018年)8月29日、「出席停止といえども、議員報酬の減額につながるような場合は、裁判所の司法審査の対象となる」としました。つまり、50年以上前の判決「もめごとは内部で処理して下さいね~」は裁判所内で揺れが生じており、今後、変化する可能性があると云えます。
 
大切な議会事務局長の役割
 人間だれしも歩く百科事典ではありません。間違えもおこします。無意識のうちに、市側に傾くこともあり得ます。議員も職員も法律に一定の理解があるとは限りません。地方自治体の守備範囲は、広いです。外交防衛や金融政策など以外は何でもありです。法学部出身者ばかりを新規採用することは出来ません。
 そこで、議会事務局長は折に触れて、議会事務局職員としての経験値を得ている「物知りな職員」に見解を聞くことをお勧めします。これにより、先に示した他市のような事例回避が期待できます。議員や議会事務局職員にとって、時間の無駄を減らす効果ともなり得るでしょう。言い換えると、最も好ましくないパターンは、次の通りです。

 法律に関心が希薄な市職員 + 経験値が低い正副議長 & 議会事務局長 = 混乱

 議会事務局は、「市長にとってのスパイ」との見方もあります。しかし、中立であり、時には正副議長に適切な助言が求められます。公正で緊張感のある議会運営を支える議会義務局。その役割は大きいです。

資料2は、こちら

資料1


資料2