厚木市議 高田ひろし通信 on the web 

友人のケニア便り・その8です

ケニア便り(その8:99年3月16日号)
 私たち日本人の余暇の過ごし方は、極めて多様だ。それは、経済的に豊かなせいでもあり、自然が豊かなせいでもある。
 それに比べると、ケニアでは選択肢がとても限られている。それでも都市部で生活する現金収入のある人たちはまだいいが、私の勤務地のような農村部では、本当に何もない。
 だから、彼らの最大の楽しみは、「おしゃべり」だ。これなら話し相手さえいればいいので、お金も何もいらない。村中、どこででも、朝から晩まで、どこかで、数人集まっては、おしゃべりをしている。学校の中でも、勤務時間内でも、授業があっても先生たちはおしゃべりをしている。話題は他愛のないものから、仕事の話まで幅広いのだと思う。新聞やテレビ、ラジオはごく限られた人たちのものなので、貴重な情報源になってもいる。
 ただ、彼らの民族後が話せない自分はそのおしゃべりに加われず、ちょっと寂しいし 、口コミの情報が自分にはなかなか伝わってこないので、困ったことでもある。
 宗教も彼らの楽しみになっているように私には見える。私の勤務地では、主な宗教はキリスト教だ。村には、日曜日午前中のミサに行く人も多い。また学校も、校舎が教会の敷地内にあり教会にバックアップされていることもあって、キリスト教に力を入れていて、毎週金曜日の午後4時から5時まではお祈りの時間である。自分も派遣された当初には、好奇心からミサやお祈りの時間に参加してみた。これらの時間は、トークショウあり、歌あり、踊りありで、村の人たちや生徒たちを引きつけようと工夫している。また、教会の建物は村では最も立派な建物の一つでもあり、それも魅力になっている。話している内容は、生徒たちを対象にしている時は、子供向けの簡単なものだった。村人たちを対象にしているミサは民族語なので、残念ながらよく分からなかった。
 サッカーもやはり盛んだ。村の子供たちは、ちゃんとしたボールを買うお金はないので、ぼろ布やビニールを丸めてそれを紐でしばったものを蹴っているのをよく見る。
 また、学校のグラウンドでサッカーの練習試合があると、その周りに人だかりができる。ワールドカップの時やケニア代表チームの試合のテレビ中継があると、テレビを持っている人の家に大勢集まって、わいわい言いながらそれを眺めている。
 サッカー以外のスポーツは、学校のクラブ活動としては、男女ともバスケットボール、陸上(中距離走)などがあって、約1ヶ月前にも近隣4校の対抗戦があった。冬がないので、スキー・スケートのウィンタースポーツがないのはもちろんだが、テニスとかゴルフも都会の金持ちのスポーツにすぎない。内陸の半乾燥地帯では泳げる場所がないので、泳いでいるのも見たことがない。
 映画館も田舎なので無論ない。ただ、毎月16日は移動映画上映車が村にやってきて、車の上に小さなスクリーンをはり、映画を上映する。石鹸メーカーやビールの会社などがスポンサーになっていて、無料で見られるので、村の人たちはとても楽しみにしている。映画は、いわゆるカンフーモノなどアクションものが多い。英語の話せない人たちが大部分なので、その人たちが見て楽しめるモノということで、仕方ないのだが、こういう映画が、「日本人=中国人=アジア人=空手またはカンフー」という短絡的イメージを作ってしまう。
 お酒は、お金がないせいとキリスト教の影響で、飲まない人が多い。また、彼らの伝統的なお酒(サトウキビの砂糖汁や蜂蜜を発酵させたもの)は、どこででも作れてしまい税金をとりにくいことから禁止になっていて、表では飲めない。もっとも、休みの日に村の裏の道を歩いていると、農家の庭先の日溜まりで男たちがおしゃべりしながらヒョウタンを半割にしたものをコップ代わりに酒を飲んでいる姿をみることができる。合法的なアルコールとしては、ビールが普通で、村のバーでは500ccのビンが 一本100円強で飲める。ただ、ビールにしても伝統的なお酒にしても、彼らはおつまみや食べ物とともに飲むという習慣がなく、ひたすら話し飲むという感じだ。
 タバコもやる人はいるが、お酒同様、お金がないのとキリスト教の影響で、喫煙者の数は少ないと思う。ここで面白いのは、タバコは箱単位では買わず、1本とか2本とかで買って、皆で廻しのみをすることだ。
 麻薬の類は基本的には違法だが、マリファナは比較的手に入りやすいらしい。でも、勤務地ではまだ見たことがない。ミラーという木の枝?を囓る合法の興奮剤のようなモノも、マチャコスという近くの町では売っているのを見るが、勤務地ではやはり見たことがない。
 ゲームでは、ドラフトと呼んでいるものをやっているのを見る(日本名は分かりません。チェッカーでよかったかな)。将棋盤のように木の板や地面に9かける9のマス目を書いて、ビールや炭酸飲料の蓋を駒にし、駒は斜めにしか動いてはいけなくて、相手の駒を飛び越えたらその駒を取れるというゲーム。ナイロビではよく見たが、勤務地ではそれほど盛んではないような気がする。トランプやチェスなどの道具を使うゲームは、見たことがない。
 これら以外に日本人で趣味というと、例えば読書があるが、学校の先生でさえ、本を読んでいるところを見たことはほとんどないし、テレビを持っているような家でさえ本はほとんどない。本を買うお金がないというより、新聞でさえ自分でお金を出してまで読もうとは思わず、印刷物にお金を出そうとは思わないように見える。
 また、彼らはどんな音楽を聞くか。もっともポピュラーなのは、ザイール(コンゴ)から入ってきたリンガラという軽快だが単調な音楽だろうか。私の住んでいる教員住宅では、教会のゴスペルソングを朝から晩までガンガンならしている人がいる。ゴスペルソングとはいっても、ロック調、リンガラ調などいろいろあるようだ。ただ、西洋のクラシックはケニアでは聞いたことがない。
 いろいろ書いてきたけれども、最後にこれらはあくまで男の視点であることを断っておきたい。ナイロビは別にして、私の村では、おしゃべりしている時も多くの場合、男と女は分かれている。女の人の飲酒や喫煙は、村では見たことがない。唯一の例外は、アメリカの平和部隊(日本の青年海外協力隊に相当)の女性だが、彼女は陰で「野蛮だ」とか「良くない文化を持ち込んで困る」と非難されている。サッカーは、女子も観戦には来るが、やっているのは見たことがない。ゲーム(ドラフト)も男だけだ。
女性は水汲みや洗濯、台所仕事など忙しいのは確かだが、おしゃべり以外の楽しみって何なのだろう。