厚木市議 高田ひろし通信 on the web 
友人のケニア便り・その5です

ケニア便り(その5:98年11月8日号)
 誰もが指摘するケニアの大きな問題は、汚職、治安の悪さ、道路の悪さだ。これがケニアの大きな産業であるサファリにくる海外からの観光客を減らし、普通の外国の企業もケニアへの投資を敬遠し、ケニアの経済に痛手になっている。
 汚職は、日本でも大きな問題だが一般的には新聞紙上の話題に過ぎないと思う。ところがケニアでは、後で述べる同僚の裁判でも、被告側が裁判官にも賄賂を使っているらしく、こちら側も賄賂を使わないとこのままでは負けるとケニア人たちも信じている。僕はまだ見たことがないけれども、路上で警官が交通の取り締まりで自動車を止めているのも、実は賄賂をせびるためと言われている。ここでは、賄賂はごく日常的に使われているようだ。ただ汚職はまだ自分にとっては身近な問題ではないので、ここでは、もう少し身近な治安と健康、事故について書いていきたい。
1. 治安と犯罪
(1)配属先での出来事
 私の配属先には、アメリカの平和部隊(日本の青年海外協力隊に相当)の女性がいる。この女性が今年5月、日中部屋にいる時に強盗に襲われ金品を取られ、大怪我をした。彼女の家は、私の家とは異なり、学校の奥、校長の家に隣接していて、道路からは見えない。5月始めの学校の始まる前で校内にも人がいなくて、誰からも見られていない時に、二人組が一人は玄関に立ち外側を見張り、もう一人がドアをノック、彼女が訪問者を確認せずにドアを開けると、強盗は彼女を襲い、頭部と右手を負傷させ、金銭とラジカセやギター、カメラなどを奪って逃げた。彼女がアメリカ人であることからピストルを持っていないかと警戒していたらしいが、彼女はそんなものは持っていなかった。
 彼女の怪我は、頭部も右手も10針近く縫う大怪我で、一旦アメリカに帰国、約2ヶ月休職し、7月から仕事を始めた。こんな危険な目に合いながらも仕事を再開し、しかも来年以降、平和部隊としての契約が切れても、ロータリークラブなどの支援を受けながら灌漑などの独自の活動をケニアに残って続けるつもりらしく、本当に立派だと思う。
犯人は、彼女の証言をもとに地元の人が捕まえ、警官に差し出して逮捕された。
彼女もその容疑者を見て、犯人であることを確認している。取られたものの一部も彼の家から発見されたとのこと。
 ケニアでは弁護士をつけることは権利でも義務でもないらしい。だから被告側は、自分のお金で雇わなければならない。そこで、この被告が弁護士を雇った時には、同僚達がこんな黒白のはっきりしている裁判に弁護士を雇うなんて無駄なことを、と嘲笑していた。
しかし被告側は、その後裁判官にまで賄賂を使い始め、裁判の行方は混沌としてきたようだ。それで、最初に書いたように同僚の教師達は彼女にも賄賂を使えと進めているが、彼女は正義感が強く、反発している。
それにしても、弁護士を雇い、賄賂を使うお金があるなら、なぜ強盗なんかをしたのだろう。実際には、親戚、一族でお金を出しているのだろうということだけど、それが出来るなら、事前に助けてやって欲しかった。
この事件は、自分が配属先に行く直前に起こったために、自分もそこの治安にはとても神経質になってしまった。
(2)首都ナイロビで
 
ナイロビは、犯罪で有名な都市だ。治安がとても悪い。
私も時々使う両替商が、9月に強盗に襲われ、彼らが逃げるのを妨害した二人が射殺された。
こんなのは犯罪とも呼べないかもしれないが、ナイロビの路上を歩いていると、車のガソリンがなくなったが、すぐ返すから買う金がないので貸して欲しい(日本円で500円くらい)と時々声をかけられる。とても信用できないので、貸したことがないけど。
 ナイロビは危険なのでかなり注意しているから危ない目にあったことがなく、これくらいしか逸話が思い付かなかった。
(3)防ぐために
 僕ら日本人は、やはりとかくお金や高価なものを持っていると見られており、盗難には遭いやすい。青年海外協力隊の隊員でも、バスの中ですられたり、街中で引ったくりにあったりしている。自分は、以前にイタリアやモロッコ、中国で、すられたり騙されたり引ったくられたりした経験があるので、ケニアではかなり注意しているせいか、今のところそうした犯罪にはあわずにすんでいる。
 一番注意しているのは、危険な場所に危険な時間帯には行かないことだ。ナイロビでもあそことあそこは、危ないとか、配属先の村でも、この谷あいは貧乏人が多く治安が悪い(前述の犯人もそこに住んでいた)と言われている場所がある。そういう場所にはなるべく行かないし、行く時には、昼間の明るい時に、なるべく複数の人間で行くようにしている。
また、アメリカ人の女性が襲われた理由の一つに、彼女は自分の持っているもの 、ラジカセやギターなどを見せびらかしすぎたとも言われていた。だから、自分はラジカセやギターは持っていないけれど、それ以外でもカメラや双眼鏡、その他のものをなるべく見せないようにしている。ただ、村では共同体意識がとても強く、持ち物は基本的には皆で共有すると言う意識が強い。だから私の場合、隠している、自分だけで使おうとしていると最近、彼らが反発を感じ始めているようなので、ちょっと困 っている。
 もう一つ一般的にいわれる注意事項は、周囲の人たちと仲良くすることだ。ここでは、ものの共有だけでなく、友人・知人やお金のある人がない人に食事や飲み物、ものをおごるのは当然と思われている。僕ら青年海外協力隊の給料はとても安く、日本人としては金持ちではないけれど、村人と比べれば、お金を持っているし、僕らが日本から持ち込んだものの多くはここでは手に入らないようなものなので、羨望のもとになってしまう。上に書いたように、自分は金持ちではない、金品をあまり持っていないと見せることも大事だと思っているので、仲良くすることととの両立がうまくいっていなくて、ちょっと苦労している。
2.健康
 ケニア人の平均寿命は、一時60歳近かったのが、最近はHIV/AIDSの影響もあり、54歳程度である。日本の約80歳に比べるとかなり短い。
死因についての全国のデータを見たことがないが、私のいる県の死因十傑は、マラリア、肺結核、肺炎、窒息(Severe asphyxia)、貧血、栄養失調、AIDS、胃腸炎、早産、髄膜炎であった。10日前に日米共同によるケニア西部の3県の調査が発表されたが、例えば、私たちの多くの仲間が配属されているキシイ県では(ケニア西部で私の配属先から500kmくらい離れている)、

マラリア 33.2%
肺炎 10.9%
肺結核 10.6%
事故 7.1%
心臓病 6.0%
貧血 4.8%
4.4%
AIDS 4.1%
動悸 2.1%
下痢 2.0%
破傷風 1.4%
はしか 0.6%
その他 12.8%
であった。
 なんといってもマラリアが一番危険なので、予防薬の服用とか蚊帳の使用などの注意をしている。後は寄生虫や肝臓病が心配なので、生水は飲まない様にしているが 、訪問先で出された水はやはり少しは飲んでしまっているし、あまり神経質になるのもいけないと思うので、どうなることやら。
 マラリアは危険な病気ではあるが、きちんと対応すれば、死ぬほどの病気ではない。しかし、医者にいくお金がないとか、大した病気ではないだろうとタカを括っている間に進行し、重病になってしまう。6月に村の知人の6歳になる子供がマラリアで亡くなったが、彼も定職がなく、お金がないために医者に連れて行くのが遅れた。

3.事故
(1) 交通事故
 ケニアでは、道路が舗装していないとか、舗装してあっても穴が開いているとか、道路がとても悪い。それに加えて、多くの自動車の整備がきちんと行われていないし、運転マナーが悪いことから事故がとても多い。また僕がきらいなのは、交差点が信号ではないロータリー式なので、車の流れが途切れず動き続いているために横断するタイミングがとてもつかみにくく、危険な思いをする。
 僕自信はまだ事故には巻き込まれていないが、自動車同士の接触事故はよく見る。
また、先週、ケニアからタンザニアに研修旅行中の青年海外協力隊の隊員の乗っていたバスが、正面衝突事故を起こした。彼は、鼻を強く打ち、軽いむち打ちを起こし、右足膝の靭帯を痛めたが、まだ先週の話で、詳細な診断は下されていない。ただ彼の話では、膝から下の足がなくなっていた人もいたらしいので、事故に巻き込まれたことは運が悪かったけど、あの程度ですんだのは、運が良かったのかもしれない。

交通事故は、ある程度注意は出来るが、バスには乗らざるを得ないし、運・不運かなと思ってしまっている。

(2) その他
 交通事故に限らず、事故とか安全に対する関心はケニアではとても低い。9月に生徒の社会科見学の引率で、郵便局と炭酸飲料の会社の見学に行った。自分も10年前まで業種は違うが日本の製造工場の技術者をしていたので、いろいろと比較をしてしまった。特に安全関係の違いが大きかった。
 ビンのハンドリングなど、もう少し作業を工夫すれば多少は安全になりそうな作業がそのまま。日本だと自主管理などの対象ですぐ改善するだろうに。また、運搬用のフォークリフトやトラックと作業者、見学者の動く範囲の区別が全くなく、いつ接触事故が起こっても不思議はない状態だった。シャッターの下も何の歯止めもなく作業者、見学者が通っている。錆びているから簡単には落ちないかもしれないが、危ない。
説明してくれた人に事故はどれくらい起きているのか聞いたのだが、把握はしていないもののかなりの数起こっているようだった。しかも、事故は起こっても代わりの人がすぐ作業をするから心配はいらないと、それを問題とは感じていないように聞こえた。
 先にマラリアで子供を亡くした人のことを書いたが、彼もそのことをそれほど大きな問題とは受け止めず、また子供を作れば良いさと言っていた。始めそれは、その話を聞いてすごく悲しそうにした僕を慰めるために言ったのかとも思ったのだが、どうも本気らしい。人命とか安全とか、それほど大事に考えていないように見えてしまう。
 安全って、ある程度は注意の積み重ねで防げるが、やり方や装置を変えない限り大きくは減らせない。その為には皆の意識を変えていく必要があるが、道は遠い。